老後資金の対策として効果が大きい生活費の見直し

会社員や公務員のご家庭の家計相談をこれまで3,500件以上受けており、その中でも多くの40~50代世帯の老後の貯蓄残高をシミュレーションしてきました。

2019年後半に話題となった「老後資金2,000万円問題」以降、老後資金の対策として資産運用についてのアドバイスを求められることが格段に増えてきましたが、この記事では、老後資金の対策として資産運用以外の方法について考えていきたいと思います。

老後資金の対策は資産運用だけで解決できるのでしょうか

私は老後資金の対策として、大きく分けて次の3つ方法があると思います。

1.資産運用

2.支出を減らす

3.収入を増やす

まず 1.資産運用の効果について考えていきましょう。以下の想定で、老後の収支をどの程度改善できるかを試算します。

【想定: 50 歳から資産運用をする場合】

  • 50 歳から 65 歳まで毎年 36 万円(1 カ月あたり 3 万円)を分配金無しの投資信託で積み立て投資をする
  • 65 歳以降は毎年 36 万円(月あたり 3 万円)を取り崩し続ける
  • 65 歳から 75 歳まで取り崩しながら運用を継続、75 歳で全て売却し現金化する
  • 運用利回りは仮に全期間で年率 3%とする
  • つみたて NISA を利用し、運用益に課税されないものとする

元金の総額540万円に対し、65歳から88歳まで年36万円受け取り約8万円が残るので受け取り総額は約836万円となります。老後の収支を約296万円改善できることになりますが、これだけでは多くの人にとって不充分な改善額ではないでしょうか。

また、投資信託の特性を考慮すると、この受け取り額も確実ではないという問題もあります。

実際、資産運用の成果を大きく左右する要因として、資産運用に充てる金額と運用期間があげられます。例えば50歳から始める場合、大きな金額を資産運用に充てるのは心理的な負担の大きさから多くの方は容易でなく、また運用期間も短くなる傾向になるため、大きな収益は見込みにくくなります。

例えば40歳から始めることができれば時間を味方につける事で有利な点はあるのですが、子育て期間は住宅ローンなどの支出に加え子どもの学費等もかさみ、資産運用にお金を入れ過ぎてしまうと手元の現預貯金が減る事が想定され、タイミングによっては評価額が低くなっている金融商品(例えば投資信託)を泣く泣く売却などということになりかねません。

私の今までの経験上、標準的なサラリーマン家庭を想定しキャッシュフロー表(将来の収支と貯蓄残高のシミュレーション)を作成して検証すると、老後の貯蓄残高を大きく増やすことができたのは支出を減らすことでした。

もちろん老後資金の対策のひとつとして資産運用に効果があるのは間違いないのですが、それだけで老後資金の問題を解決できる人は少数派であり、特に資産運用を始めるタイミングが遅いほどなかなか難しいと言えるでしょう。

老後資金の対策に大きな影響を与える日本人の長寿化

老後の貯蓄残高を大きく増やす対策として、支出を減らすことと書きましたが、その大きな理由の1つは長寿化です。

日本では、95歳まで生存する男性の割合は11.1%、女性の割合は28.3%まで増えています。これは令和2年の統計値ですが、平成2年の同じ統計を見ると男性 3.0%、女性9.0%であり、この30年で3倍以上に伸びています(※1)。

今後も伸びることを考えると、「人生100年時代」は決して大げさな話ではなく、今後95歳程度は想定すべき年齢となってくると思います。老後の長期化によって支出総額が以前より多くなることが考えられるため、月々の支出の削減は収支改善により大きな効果を与えるようになってきます。

老後資金の問題は支出の削減で解決できる可能性が高い

支出を減らすことは老後資金の対策としてどの程度の効果があるのか具体的に考えてみましょう。現在50歳で95歳まで生きると想定すると、支出を月3万円減らすことができれば、単純計算で年36万円×45年=1620万円も老後収支を改善できます。

私が相談を受ける人の中で、世帯収入が平均より高い方に老後資金のシミュレーションを行うと、老後資金が足りないという結果になる人が実際多いです。

しかし、老後にお金が足りなくなるというシミュレーション結果になった人でも、保険料を圧縮する、スマートフォンの契約を見直す、支払額が少なくなる住宅ローンに借り換えるなどを行い、月数万円の支出を減らすだけで、老後もお金に困らないシミュレーション結果に変わる人が多いのもまた事実です。

最初に書いた「老後資金2,000万円問題」は多くの人に不安を与えましたが、2,000万円という金額はサラリーマンの夫と専業主婦の妻の老後の年金などの収入平均額と老後支出の平均額の差を積み上げた金額であり、支出が減って収入と支出の差が少なくなれば、2,000万円も必要ないのではということが考えられます。

また、共働きをされ(ともに厚生年金に加入の場合など)、老後の年金が多いご夫婦であれば、そもそも収入と支出の差は少ないかもしれません。

必要な老後資金をシミュレーションし、不足分を長い老後を考慮した月の支出削減額に落とし込むと、固定費の見直しで無理なく老後資金の対策を実現できる可能性が高いことを、ぜひ理解してもらえればと思います。もちろん、削減できた金額を資産運用に充てることができれば、より効果は高まります。

老後の勤労収入を老後資金計画に反映するべきか

最後に、収入を増やすことが老後資金対策としてどうかを考えましょう。ここで言う「収入を増やす」とは、主に65歳以降も働いて収入を得ることと位置づけます。

実は日本のシニア世代の就業率は、以下のように既にかなり高くなっています。(※2)

65歳~69歳 70歳~74歳 75歳以上
男性 60.0% 41.3% 16.0%
女性 39.9% 24.7% 6.8%

65歳から70歳まで手取りで年200万円を稼ぐことができれば、5年間で1,000万円の収支改善となるので、その効果は大きく、私も緩く長く働くことをお勧めしています。一方、65歳以降の勤労収入を老後資金のシミュレーションにはできる限り反映しないようにしています。

65歳以降の勤労収入を反映させない理由は2つあります。1つは健康状態により働けなくなる、あるいは働くことが大きなストレスとなる可能性。もう1つは想定を超えるような多額の支出が発生した場合の備えとして、不確実なプラス要素をシミュレーションに入れないでおくという考え方です。

後者については、例えば配偶者の長期に渡る要介護状態、子どもの長期間の療養、地震や洪水などの自然災害による被害など様々なケースが考えられ、実際に相談者のシミュレーションを大きく修正したことも何度かあります。

老後資金のシミュレーションには反映させずとも、65 歳以降に就労することは、老後資金の対策として収入の安定というメリットだけでなく、社会への貢献という点においても豊かな老後を過ごすために有意義な対策のひとつと考えられます。

まとめ

長寿化により月々の支出が老後の収支に与える影響は今後大きくなり続けています。老後の収支をシミュレーションし、足りない金額は月々の支出を減らすことをまず考え、資産運用と組み合わせて改善を図ることが確実性の高い対策のひとつと言えそうです。

なお、月々の生活費を減らすのであれば、老後になってからなどと考えず、いますぐにでも減らすことが大切です。年齢を重ねるほど生活を変えることのハードルが高くなり、実行に結びつきにくくなることを多くのお客様の経験から痛感しています。

平野 雅章
平野 雅章 相談専門ファイナンシャルプランナー(CFP)

2007年に横浜FP事務所を開業。個人相談に特化したFPとして、老後資金、ライフプラン、生命・火災保険、住宅ローンを中心に累計3,500件超の個人相談を実施している。豊富な相談経験を活かし、執筆やセミナー講師も多数。 2011年より一般社団法人全国ファイナンシャルプランナー相談協会の代表理事に就任、公正なFP相談の普及に奮闘。神奈川県立産業技術短期大学校で非常勤講師も務めている。

平野 雅章さんの記事をもっとみる

同じ連載の記事

おすすめの関連記事

介護が不安な、あなたのたよりに

tayoriniをフォローして
最新情報を受け取る

ほっとな話題

最新情報を受け取る

介護が不安な、あなたのたよりに

tayoriniフォローする

週間ランキング

ページトップへ