実家の相続に備えておきたい大切な3つのポイント

相続トラブルで相談に来られる方のほとんどが実家に関する問題をお持ちです。現在、高齢の親世代は持ち家率が高く、実家の相続は多くの方が一度は経験するのではないでしょうか。

そこで、実家の相続に向けて、家族で考えたいポイントについて解説させていただきます。

実家だけを相続するときに起きるトラブルの原因とは

65歳以上の持ち家率が単身世帯で7割近く、夫婦のみ世帯だと実に8割以上ですので、相続において遺産に持ち家が含まれる家族が多くなります。 そんな中、「大事な家族のきずなを守るための相続対策とは」でもご紹介しましたように、相続紛争の約75%が遺産価額5,000万円以下となっています。

2023/09/03

大事な家族のきずなを守るための相続対策とは

相続財産に持ち家が含まれる家族が多く、その上、遺産価額が低いほど相続のトラブルが多くなり、実家だけを相続する場合ほどトラブルになりやすいことを意味しています。

理由は、金融資産と違い、不動産の価値は分かりづらいこと、そして、自宅のような建物とセットになった不動産は分けづらい財産であるためです。

また、実家には想い入れがあります。自分が頑張って建てた親世代はもちろんのこと、子世代にとっても幼少期から過ごし、想い出いっぱいのわが家である場合が多いです。このため、金額的な分け方の紛争のみでなく、感情的な要因も絡んでくることもあります。

トラブルになりやすい条件とは!?

では、実際にトラブルになった家族に共通点などはあるのでしょうか!? 私のところに相談に来られる方で多い共通点は、以下の4点です。

  • もともとは兄弟姉妹仲が良い
  • 40 代~ 60 代の忙しい年代
  • 居住地が皆離れていて、兄弟姉妹間で普段の交流があまり無くなってきている
  • 兄弟姉妹の誰かが親世代と特に関わりが強い

仲の良い兄弟姉妹だったはずが…

この場合、年代的にそれぞれいろいろな事情があるからだと感じています。子どもの教育費がかさむ時期であったり、仕事がうまくいかずお金が必要な事情があったり。また、実家相続のトラブルには、財産要因以外に負担要因も大きく影響します。

例えば、親の面倒を見ていた長女と他県で暮らす次女の場合、長女は面倒を見ていた分の寄与分(プラス評価)があるべきと訴え、一方次女は、法定相続分で均等割りを主張するというようなケースです。

また、思いのほか多いのは、感情要因です。実家に対する想い入れによるぶつかり合いや、兄弟姉妹の行動に不信感を持ち責め合ったりするなど。

もともと仲が悪かったならいざ知らず、仲が良かった兄弟姉妹が感情で揉めるのは、お互いの普段からのコミュニケーションが不足し、ボタンを掛け違ってしまっているのだと思います。

私はこれまで家族内調整のお手伝いもさせていただきましたが、早期対応であれば意外と難しくないことが多かったと実感しています。

実家相続をトラブルなく解決するには!?

私は、実家相続についてセミナーや講演などをさせていただく機会が多く、その際に必ずお伝えさせていただいていますが、実家の相続で後悔しないためには、こちらの3点が重要です。

1.まず初めに正確な現状把握を行う

2.相続のことだけでなく、総合的な視点で対策を検討する

3.選択肢が最も多いうちに行動する

関連サイト

「生まれ育った実家で独り暮らしをする親のために備えておきたいこと」

業界最大級の老人ホーム検索サイト | LIFULL介護

で触れておりますが、第一に重要なことは正確な現状把握です。

正確な現状把握を行う

すべてに共通していますが、問題解決の要は正確な現状把握なのです。 問題解決で有名なのが、「トヨタ問題解決」ですね。トヨタ問題解決の特徴は、要因解析で「5なぜ」(5重になぜ?を繰り返す)を実施し、真因を突き止めることにあります。

私は会社員時代に「トヨタ問題解決」を徹底的に叩き込まれました。その経験値でお話ししますと、正確な現状把握ができていないと、どれだけ要因解析で「5なぜ」をやっても真因にはたどり着かず、結果、正確な対策が打てません。

ということで、現状把握をどれだけ正確にできるかでその先の結果が決まるということです。

相続のことだけでなく、総合的な視点で対策を検討する

2023/09/03

大事な家族のきずなを守るための相続対策とは

でご紹介した5つの項目について検討を進めることをおすすめします。

1.ご両親の暮らし(介護のこと・お金のこと・住まい方のこと)

2.ご両親の身上監護

3.財産の管理保全

4.相続トラブル防止

5.次世代(自分たち以降)への負担の軽減

これらに対し、正確な現状把握をしたうえで対策を検討するわけですが、ここでのポイントは、すべての選択肢を案として出すことです。可能性が低いと思われることも、とにかく考えられる方法すべてです。

そしてすべての案のメリット・デメリット・リスクを冷静に比較し絞り込みます。私の経験では、総合的に検討すると、意外な選択肢を選ぶ家族が多いです。代表的なのは、「絶対この家からは離れない」とおっしゃっていた親が、自宅を売却して別の安心安全の住まいへの転居に踏み切る等です。

選択肢が最も多いうちに行動する

これも

関連サイト

「生まれ育った実家で独り暮らしをする親のために備えておきたいこと」

業界最大級の老人ホーム検索サイト | LIFULL介護

でご紹介していますが、これは「ご両親が元気なうちに行動する」ことです。親世代が元気であればあるほど選択肢は多いものです。 選択肢をより多く並べられるうちに行動に移していただくことが重要です。

対策したつもりでも「しまった!」となることがある

相談者の中に、「対策したはずなのに」と言いながら悩み相談に来られる方もいます。選択を間違えてしまったケースです。例えば以下のようなケースです。

思い付きや何かの情報を見たり聞いたりして、少ない選択肢の中からメリットだけを見て飛びつく

分かりやすい事例は、相続税対策として有名なアパート建築です。節税効果のメリットに飛びつき、郊外の入居需要が薄い地域で建ててしまってから、経営難に陥ったり、子世代間でのトラブル原因になったりといった問題につながることもあります。

もちろん、様々な観点から検討し、経営のことをしっかり勉強してから建築に踏み切るのであれば問題はありません。

相続のことだけ(総合的な検討ではなく)の対策を打つ

例えば「争族防止には遺言書」ということで父親に公正証書遺言をお願いし、相続人皆平等にという観点から、実家等の不動産がすべて法定相続分で共有名義になるような内容となっていて、相続してから「しまった!」となったケースを何件も見てきました。

不動産の兄弟姉妹共有名義は、あとで困ったことになる場合が多いので、避けた方がよいケースは多いです。 確かに、遺言書や民事信託など、効果的な方法はありますが、万能ではありません。うまく使わないとトラブルの元となるなど、逆効果となることもあります。

また、意外と総合的に検討した結果、そういった法的ツールが不要となるケースも少なくありません

家族での進め方は工夫を

お話しした3つを実行するにあたり、相談者がよくおっしゃることが、「話題にしづらい」「進めるきっかけがつかめない」です。 本来は、これらのことを考えるのは親世代です。

今後の自分のこと、子どもたちが相続で揉めないように、次世代に負担をかけないようにと親世代がしっかり考えておいていただけると子ども世代が悩むことはありません。

実際に、親世代自ら親の相続で苦労した経験があり、自分は子世代に迷惑をかけたくないという理由で生前対策を実施される方もいます。一方、そこまで考えていない方や、むしろ「まだまだ元気でいたい」という気持ちから、そういった問題には触れたがらない方がいることもまた現実です。

また、兄弟の中で、いきなり将来の相続のことを言い出すと、「財産を狙っている」と思われてしまっても困ります。そういったことで、将来の相続に不安や漠然とした悩みがあっても、「まあいっか」と問題を先送りされる方が多いというのが私の実感です。

私は毎度、相談に来る方にいつもこうお話ししています。「だからといって、何も進めず、選択肢が無くなるタイミングまで待つことが最善策でしょうか!?」と。

「言い出しにくいから言わない」とか、「不安だけど、このままにしておこう」ではなく、やり方を考えて少しでも先へ進めていただくことの方がよいと考えています。

ただし、いきなり親世代に「相続の時の分け方は!?」とか「このままだと私が困ることになるからちゃんと考えて!」と自分の都合から話すことはトラブルにつながりかねません。デリケートな問題のため、実家相続の生前対策には、話し方、進め方も重要なテーマです。

家族だけで進めることが難しい場合は、無理をせず、総合検討と家族調整が得意な専門家に相談することも選択肢の1つです。

まとめ・補足

相続のトラブルは「親の財産は実家だけ」の家族で最も多く起こります。 相続の段階になって後悔しないためには、正確な現状把握、総合的な視点での対策検討、そして選択肢が最も多いうちに行動する、この3つの備えが大切です。

また、とてもデリケートなことなので、進め方もしっかりと考え、自然な流れで進めることも必要です。 もしも、将来の実家相続について、少しでも心配なことや不安なことがあれば、本記事を参考にしていただければと考えています。

後藤 明
後藤 明 実家相続の生前対策アドバイザー(CFP®)

トヨタ系住宅メーカー在籍時、相続税対策のためのアパート建築事業を担当する中で、「賃貸住宅事業では土地オーナーの真の悩み解決ができない」と痛感し、CFP資格を取得し独立。 相談者からは「心配事以外の課題も発見し同時に解決してくれる」「家族にも言えない本音を引き出し、それぞれの立場を考えながら調整してくれる」等、幅広い専門知識を活かした問題解決力、家族の調整力に定評がある。

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