老齢年金と不動産の活用 ~オーストラリアから学ぶ、ライフスタイルと資産形成のヒント 第2回~

2023/09/25

確定拠出年金の活用方法 ~オーストラリアから学ぶ、ライフスタイルと資産形成のヒント 第1回~

第1回では、オーストラリアの制度と実例より、私たち日本人の資産形成方法を考えました。第2回は、老齢年金と不動産の活用より資産形成について考えていきたいと思います。

オーストラリアの老齢年金

オーストラリアでは、年金受給の対象年齢になると収入と資産の審査があり、一定の基準を超えると、年金の支払額は減少していき、一定の資産もしくは収入がある人に年金は支払われません。

そして、夫婦での年金の最大受給額は約300万円となっています。($1=85円換算)余力のある人は、自分の資産から老後生活を組み立ててくださいというシステムです。

年金やその他資産を十分に蓄積できなかった場合は、年金を基準にした生活となり、十分に資産を形成できた一部の方は、年金を受け取らないで悠々自適の生活を送ることになります。

オーストラリアの年金の受け取り開始年齢は徐々に上げられていっており、1955年7月以降の生年月日の方は66歳と半年以降から開始、1957年以降の方は67歳からとなっています。

日本では老後の土台となる年金制度が、就労形態により主に以下のように分かれています。

以下はおおまかな受給額の例です。

〇日本国内に住んでいる 20 歳以上 60 歳未満の方が加入する国民年金

20 歳から 40 年間の全期間に加入の場合  65 歳から一人あたり約 78 万円を受給

〇会社員やパートタイムの一定の労働条件を満たしている人が加入する厚生年金

加入期間と報酬額により加算

例:年収 500 万円  40 年間加入  65 歳から約 107 万円を受給
  年収 1,000 万円  40 年間加入  65 歳から約 171 万円を受給

上記の年収500万円の例の場合、国民年金と厚生年金の合計で約185万円ということになります。

夫婦で配偶者が専業主婦の場合約185万円と約78万円で約263万円、共働きでともに500万円の年収であれば、約370万円となります。この他、会社によっては厚生年金以外にも、厚生年金基金や確定拠出年金などを上乗せしていたり、自分で拠出できるような仕組みにしているところもあります。

老後は、現役のころの収入と比べると年収は大きく減少することはほぼ確実ですので、しっかりと準備をしていく必要があります。年収の高い方のほうが、老後と現役時代の収入のギャップが大きくなりますので、資産残高が多くても早く底をつく見込みになるケースは意外に多くあります。

年金制度についてはさまざまな議論があるものの、老後の収入の柱となりますので将来に備えて十分理解しておくことが重要です。

日本の社会保障制度の中心となっている老齢年金の支給額は、国の政策によるところが大きいですが、確定拠出年金で積み立てていった資金の将来の受領額は、ご自身が運用の主体となりその結果がそのままご本人に帰属します。

したがって、意識をもってしっかりと運用方針を明確にしていく必要があります。老後資産は数百万円~数千万円かわる可能性がありますので、資産形成の基本をまず理解し、活用可能な制度や長期的な視点の運用方針などを学んでいきましょう。

オーストラリアの不動産

オーストラリアでは、購入した住宅の価値は時とともに上昇し、それに伴って資産額も増加していくと考えられていて、不動産は重要な資産分野として位置づけられています。過去の価格上昇率の推移を見てみるとそれもうなずけます。

オーストラリアの不動産 平均価格上昇率

仮に2002年に一戸当たりの価格が2,500万円とした場合、2020年時点では6,000万円を超えるというレベルです。日本の状況と異なるのは、住宅等の不動産資産の所有者は、長期的に全体の資産を大きく成長させているということです。

日本の市場では、持った瞬間から価格の下落が始まるといわれますが、オーストラリアでは不動産価格の上昇は顕著です。そのため、資産を保有している層とそうでない層で、保有資産の差が拡大しているということになります。

このような住宅価格の高騰で、保有率は40%台から30%台へ減少しているようで、勤労者が住居を所有することは年々厳しくなっていると聞きます。若い世代は、いままでは学生生活が終わると実家を出ていたのが当然だった風潮が、価格の高騰に追いつけず、最近は自宅に住み続ける子どもも増えているようです。

また、住宅価格の他に日本と比較してあげられる特徴の一つは、住宅土地の一区画あたりの面積が日本のものよりはるかに大きいことです。オーストラリアは、日本の約20倍の国土面積だからということもあるかもしれませんが、内陸の土地などの多くは未開拓で人口は都市の一部に集中しています。

疑問に思っていたのが、なぜ日本のように土地を小区画に分割しないのかということでした。

この理由としては、都市開発計画には、住環境の保護や都市デザインを担当する専門部署が長期計画のもとで安易に開発を許可しない方針で、開発に関する規制が厳しく一区画あたりの土地面積が広いまま維持されてきたようです。

ただ、不動産価格の上昇は徐々にこの政策にも影響しているようで、土地面積は年々減少しているというデータがあります。

オーストラリア 主要都市の平均土地面積推移

まず主要都市の平均土地面積が2005年度には602㎡で、坪数でいうと約182坪ということになります。2019年度のデータでは467㎡(約141坪)へと135㎡(約41坪)減少し、減少率は‐22%となっています。

それでも都内では100㎡もあると十分広いという印象がありますので、日本とは比較にならないほど大きいことがわかります。

オーストラリアの人口は、全体としても主要な都市単位でも増えており、今後も人口は増加していくと見込まれていますので、需要面も底堅いといえるかもしれません。

オーストラリアの人口推移

合計

自然増

移民増

2018年3月時点

380,276

142,279

237,997

2019年3月時点

394,336

143,667

250,669

2020年3月時点

375,689

136,444

239,245

2021年3月時点

35,684

131,018

-95,334

自然増加数は毎年13万人から14万人と安定して増加しています。オーストラリアは移民数も多く、2020年時点では毎年20万人以上増加しており、自然増と合わせて約40万人近くとなっていました。

2021年3月時点では、コロナの影響により移民数がマイナス9万人へと減少しましたが、一時的なものと見込まれています。物の価格は需要と供給によるところが大きいので、そういった点でオーストラリアの不動産価格は維持される要因は多いといえるのではないかと思われます。

とはいえ、不動産も資産分野の一つにあたり、リーマンショックなどの株式市場が暴落した後などには大きく下落したこともあります。

日本はバブル崩壊を経験していることや社会的背景もあり、慎重に考える方も多いと思いますが、オーストラリアでは住宅を含む不動産は長期的に売却益を見込んだ運用資産の一つとなっていて、日本における状況とは大きく違っているという印象があります。

【次回のご案内】

国や文化の違いによる不動産活用方法や年金制度の違いもありますが、第 3 回となる、次の章では、オーストラリア人の時間の使い方という視点から、「自分らしい」シニアライフを過ごすためのライフスタイルのヒントを考えていきたいと思います。

藤本 崇
藤本 崇 1級ファイナンシャル・プランニング技能士

オーストラリアでファイナンシャルプランナーとしてスタートし、不動産、金融、保険業界等の実務を通して数百件以上の相談にのってまいりました。 知らない間に政策や経済環境などによって変わっていることは様々あります。 日々の生活では気づかない別の選択肢があることをファイナンシャルプランニングを通して知っていただき、よりよい選択をしていただくために全力で応援してまいります!

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