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LIFULL 人生設計

相続において、多くの人が検討する必要があるのは「相続した実家」の扱いです。他の資産に比べて、幅広い選択肢がある一方で、取り扱いは難しいため、「相続はしたもののどうするのがベストかわからない」と迷ってしまう人も多いのではないでしょうか。

今回は、実家を相続した際に把握しておきたい様々なリスクと活用法を判断するポイントを解説します。

荒木 一朗 あらき いちろう

宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/空き家実家相談センター副代表

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「なんとなく放置」することで大きくなる空き家のリスク

それまで両親が住んでいた実家を相続することになったという子ども世代が、よくしてしまいがちな判断の一つが「先送り」です。特に、子ども世代が既に別の地域に家を持っており、相続した実家に住まないという場合には、「とりあえず空き家にしておいて、自分たちで管理する」という判断をするケースも多いようです。

しかし、空き家の維持には想定以上のリソースやコストがかかることに注意が必要です。水道管に定期的に水を流す作業や郵便物の回収、換気、掃除、庭木の手入れなどの作業は簡単に続けられるものではありません。相続した当初は、「私、近くに住んでいるから時々見にいくようにするよ」などといって対応していた兄弟姉妹も時間が経過するにつれ、次第に足が遠のくようになってしまう――。その結果、建物の状態も悪化するというケースを筆者は何度も見てきました。

また、こうしたマンパワーとは別にコストの問題もあります。土地建物が残っていれば、固定資産税を払う必要がありますし、水道光熱費などもかかり続けます。庭木が成長して道路や隣家に飛び出すようであれば剪定もしなければなりません。一つ一つは、少額であったとしても空き家として数年放置し続ければ大きな額になります。

また、管理が十分にできずに、空き家のまま建物が劣化し、窓ガラスが割れて草木はボーボーに、と言った状態になってしまうと、行政から「特定空き家(※)」と判断されるリスクが高まります。そうなれば、固定資産税の優遇措置が利用できなくなるため、管理コストがさらに高まるという悪循環にはまってしまいます。

※特定空き家…「倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態」など国道交通省が示している4つの基準に当てはまる空き家のこと。これに指定されると、「住宅用地の特例措置」が適用されなくなるため、固定資産税額が最大6倍になってしまう可能性がある。

さらに、事態が悪化すれば、行政代執行によって、行政が所有者の代わりに建物も解体し、その費用だけが請求されるというリスクもあるのです。

もし実家には住まないものの自分で保有し続けるというのであれば、自身の事業に利用するというケースが考えられます。別に自宅がある状態であっても、相続した実家を事務所や倉庫などとして活用すれば、定期的に足を運ぶことになるため、自然と管理もできるようになり、建物も悪くなりづらいでしょう。

ただ、私が相談を受けてきたケースでは、「目的もなくなんとなく保有して放置してしまう」という事例が多いのも実態です。明確な理由がないのであれば、早めに今後の方針を決めた方が良いでしょう。

「とりあえず賃貸に」という選択肢のリスク

相続した実家を自身で利用しないのであれば、「賃貸として活用する」もしくは「売却する」という選択肢もあります。ただ、どちらの選択肢についても、リスクがあることは知っておくべきでしょう。

まず賃貸物件としての活用する際に知っておきたいポイントとして、一度人に貸してしまうと、相続した空き家を売却した際の特例措置として受けられる 3000 万の控除が利用できなくなってしまうことが挙げられます。そのため、将来的に売却を考えているのであれば、「とりあえず判断を先送りするために賃貸に出そう」といった選択はしない方が良いでしょう。ただ、筆者の経験では、相続や空き家についての知識が不十分な FP や不動産業者などに勧められて、こうした「とりあえず賃貸」という選択肢を選んでしまう方も多いように思います。

また、賃貸経営そのものにもリスクがあることも認識しておく必要があります。地域や築年数にもよりますが、貸す相手が決まらない「空室リスク」を筆頭に「家賃滞納リスク」「家賃下落リスク」など様々なリスクがあります。さらに自らが建物の管理をするのであれば、修繕費負担や、入居者からのクレーム対応などにもリソースを割かなければいけません。こうした管理を不動産会社に委託するという方法もありますが、その場合も手数料を支払う必要があります。賃貸物件にする場合は、これらのリスクを踏まえた上で慎重に判断する必要があるでしょう。

売却するのであれば、原則「早い方が良い」

売却をする場合に、非常に重要になるのは「タイミング」です。地域にもよりますが、原則として、これから日本の不動産価格が右肩上がりに上昇していくという未来は考えにくいでしょう。そうなると、「手放したい」という希望があるのであれば可能な限り早く売却したほうが良いと考えられます。当然のことですが、建物は日々古くなっていくため、今後において建物が最も新しい状態なのは「今、この瞬間」ということになります。一般的には、古くなれば資産価値も低下するため、なるべく早く手放した方が良いでしょう。

さらに、先程言及した「3000 万円の特別控除」については、相続してから 3 年以内しか利用できないことにも留意が必要です。4 年目以降に売却した場合、控除が使えず損をすることになる点にも注意が必要です。また、売却を進める上で注意しておきたいのが、登記関係です。相続不動産においては、「建物が未登記」というケースも少なくありません。「未登記だから絶対に売却できない」というわけではないものの、購入する側からするとリスクが高いため、売却が困難になります。また、父親が亡くなった際に相続した実家の名義人を確認してみたところ、祖父のままだったというようなケースも考えられます。登記関係が明確になっていないと、売却までに想定以上の時間がかかる可能性が高いため、事前に確認しておいた方が良いでしょう

これらに加えて、「建物を壊して土地だけにして売る」というケースでは、取り壊しのタイミングにも注意する必要があります。何故なら、建物を取り壊すことで固定資産税が上がる可能性があるからです。「今年のうちに建物を壊してしまい売却しよう」と建物を壊してしまい、翌年 1 月 1 日に更地評価になることで固定資産税が上がってしまうと、売れなかった場合に高くなった固定資産税を払い続けなければいけなくなってしまうのです。

売却も難しい場合の最終手段は?

いざ売却しようと決めたとしても、実際に売れるまでに時間がかかる物件も多くあるというのが実態です。都心から離れすぎていたり、接道していないなどの条件が重なっている場合は、売却に時間がかかってしまうことが想定されます。実際に売却を進める際には、不動産業者と相談しながら進める必要があります。その際の注意点については、以下の記事で解説しているので参考にしていただければ幸いです。

◆ 参考 これからのシニアライフに向けて、住まいの売却を希望される方に

売却相手がなかなか決まらないという場合の最終手段として、行政に相談するという選択肢もあります。2023 年から相続した土地の所有権を手放して、国庫に帰属させることができる「国庫帰属制度」の運用が開始されます。「実家を相続したはいいが、自分たちは使わないし管理も困難」というのであれば、こうした制度の利用を検討するという方法もあります。

しかし、この「国庫帰属制度」を利用するためには、「建物がない」「紛争がない」「境界が明確」など様々な要件があります。さらに利用時に審査手数料がかかることに加えて、承認を受けた場合には 10 年分の維持管理コストを国に支払わなければいけません。このように利用には当たっては、非常にハードルの高い制度ですが、売却が困難な場合の最終手段として頭に入れておくと良いでしょう。

「なんとなく」で先延ばしにしないことが最も重要

これまで解説してきたように実家を相続した場合、大きく分けて「自分たちで使う」「賃貸物件にする」「売却する」という3つの選択肢があります。最終的にどれを選ぶとしても、「可能な限り早く判断する」ことで選択肢が広がります。

筆者もセミナーのアンケートなどで様々な「相続した実家を空き家にしている理由」を見ることがありますが、「今貸すなり売るなり決めても問題ないのではないか」と思ってしまうものがほとんどです。また、少なくない人がいまだに「あらゆる不動産は資産になる」と考えているようですが、今後はそうではないケースも増えていくと考えられます。

判断を先延ばしにすることで、余計なコストやリソースを割くことにならないように、早めに専門家に相談し、方向性を決めておくと良いでしょう。

荒木 一朗 あらき いちろう
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宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/空き家実家相談センター副代表

大手情報サービス企業にて不動産情報誌の企画、営業を経験後、2006年に愛知県で不動産会社CLASS ONE株式会社を設立。売買、仲介、管理の実務に携わる。 2014年に「空き家実家相談センター」を設立。社会問題化している空き家問題、実家の相続問題に加え、近年は「シニアの方の住替え」をテーマとしたセミナー、相談会を定期開催し相談者の解決サポートに取り組んでいる。これまで30年以上「住まい」のテーマに携わり、評論家ではなく、不動産実務を長年経験した不動産の実務家ならではの実効性高いアドバイスを提供することが信条。