老後の資金計画事例。2人の子どもを持つ40代ひとり親女性の場合

私に家計相談を依頼するお客様で最も多いのは子育て中のご夫婦なのですが、独立した10数年前と比べると、ひとり親のお客様の増加を実感しています。

統計で見ても、2000年は国内の婚姻件数が約79.8万件に対し離婚件数は26.4万件、2020年の婚姻件数が約52.6万件に対し離婚件数は19.3万件と、離婚件数は減っているものの、婚姻件数に対する離婚件数の比率は約33%から約37%と増加しています(※1)。

人生が長くなれば様々な出来事が起こり、夫婦が経験する変化も多くなることを考えると、長寿化が離婚率の上昇につながる面があることは、否定しにくいように思えます。また、男女間の賃金格差が縮小し続けていることも(※2)、離婚率の上昇を促している面があると推測されます。

長寿化と男女間の賃金格差の縮小という流れが当面続くと考えると、離婚率の上昇も続き、ますます多くの人が考える選択の1つに過ぎなくなっていくのでしょう。

今回の記事は、新築マンションを契約したものの、老後資金が不足しない適切な購入価格か不安になった、子ども2人のひとり親女性の事例です。

Bさん一家のプロフィール

Bさんは子ども2人の成長に伴い手狭になった賃貸住宅からの住み替えを考え、新築マンションを契約したものの、購入価格が自分たちにとって適切かどうかについて、特に検証はしていませんでした。

しかし、マンションの引き渡しは少し先だったため、契約してからしばらく経ったタイミングで、資金面に不安を感じるようになってきたそうです。

今後2人の子どもの大学進学に伴い、手元の貯蓄が減っていく状態が当面続くことを考慮すると、「マンションの購入が適切だったかどうか」「老後資金が大丈夫か」などが心配になってきたことから、私に相談を依頼したとのことでした。

基本生活費(全ての支出から住宅費・生命保険料・教育費を差し引いた金額)は23万円と特別多い訳ではありませんが、マンション引渡し後は住宅ローンに管理費・修繕積立金や固定資産税を加えた住宅費が13.2万円に上昇することもあり、キャッシュフロー表によるシミュレーションを行った結果、

Bさん95歳時に貯蓄残高は約1600万円のマイナスになるという結果でした。

Bさんの基本生活費の見直し

95歳時のマイナス額の大きさにBさんは心配になったようですが、一生涯で考えると生活費を少し抑えることができれば、老後資金を充分確保することは可能であることを伝え、まず基本生活費は月3万円減らすことを目標としました。

具体策の1つ目は、スマートフォンの契約の見直しです。これまでは大手キャリアでの契約で3人合計約2万円を使っていたので、大手キャリアのセカンドブランドに乗り換えることで約1万円を削減することができます。

2つ目は、支出の中でも割合が大きい食費です。外食の回数と1回あたりの金額の予算を決めて管理すること、ふるさと納税を利用して、返礼品にお米やミネラルウォーターなど日常で必ず使う食材を選ぶことなどにより、月1.5万円の削減を目指すことにしました。

それ以外では、購入したマンションは駅から近く交通費が減ることが見込めることなどから月5千円の削減は可能と推測されました。

住宅ローンを上手に選べば保険料を削減できる

また、Bさんが加入していた保険は、そもそも保障内容が適切とは言えませんでした。さらに今回、住宅ローンを借りることにより借入金額と同額の死亡保障である団体信用生命保険(団信)に加入することになるため、必要な死亡保障の金額は大幅に減ることになります。

これらに加えて、マンションの販売会社から勧められていた大手銀行の住宅ローンでは、団信は死亡保障のみが金利の上乗せなしで提供されていますが、

ネット銀行では団信の特約としてがんの診断確定によりローン残高が半分になる保障や、病気やケガで所定の期間の入院または自宅療養をすると月々のローン支払いが免除されたりローン残高がゼロになる保障などを金利上乗せなしで提供するところが増えています。

そのため、金利が低く、金利上乗せなしで充実した保障を得ることができるネット銀行を選ぶことにより、民間の生命保険で確保すべき保障を減らすことができ、生命保険料を抑えることが可能です。

Bさんはネット銀行での住宅ローン借り入れを決め、加入している大手保険会社の総合型の保険を見直して、必要な保障だけを複数の単品の保険で確保することにより、保険料を月1万2000円から6000円に減らすことができました。

Bさんが支出を見直した効果

Bさんの見直し後の支出と効果を、以下にまとめます。

Bさんは現状でも特段に支出が多い状態ではなく、大きな支出削減は難しかったのですが、無理のない範囲での支出見直しにより 95 歳時の貯蓄残高予想を約 1900万円改善し、プラスに転じることができました。

Bさんも安心できたようですが、自分が要介護状態になり費用がかさんだ時にも充分対応できるとは言い難い残高予想ではあります。そのため、支出の見直しと合わせて以下を提案しました。

Bさんの勤務先は確定拠出年金の制度を導入しており、自分が選んだ商品の運用成果により老後に受け取れる金額が決まりますが、Bさんはリスクを避けたい気持ちから元本確保型の商品を選んでいました。

そこで元本割れのリスクはあるものの、資産を増やせる可能性がある投資信託を選ぶことをBさんに提案しました。リスクとリターンのシミュレーションをご覧いただき、Bさんが許容できる範囲のリスクを確認した上で、それに沿った資産配分への変更をさっそく実行しています。

※3.95歳時の貯蓄残高予想は業務用ライフプランソフトにより算出。物価上昇率や老後生活費の変化などの影響で、改善効果は単純に年間改善金額×経過年数で算出した総改善金額とは異なります。

住宅の購入価格より、生涯収支への影響が大きい「生活費の見直し」

ひとり親世帯で老後の1人暮らしを想定すると、子どもの教育費負担により働いている間に老後資金を準備するハードルが高くなります。また、老後の生活費も2人暮らしと比べて効率が悪いことを意識しておく必要があるでしょう。

65歳以上の夫婦のみの無職世帯での消費支出は全国平均で22万4390円に対し、65歳以上の単身無職世帯では13万3146円と前者の約6割となっています(※4)。

長寿化により老後の期間が長くなっていることを考えると、老後の生活費が生涯の収支に与える影響は大きくなり続けています。

老後になってから大きく生活費を下げることは難しく、働いているときからなるべく早い段階で生活費を削減できれば、老後も抑えた生活費を継続でき、その金額が月数万円であっても生涯の収支を大きく改善する効果があります。

生活費の多寡の生涯収支への影響は、購入する住宅価格の数百万円の差より、はるかに大きなものなのです。

また、ここ数年、住宅ローンはネット銀行を中心に、死亡時だけではなく、がんの診断や病気・ケガで働けない時など幅広い保障を、金利上乗せなしで団信により確保できる銀行が増えてきました。必要な保障は保険だけではなく、住宅ローンの団信と合わせて総合的に確保することもぜひ考えたいポイントです。

※事例として挙げたご家族のプロフィールや支出見直しの内容は事実に基づくものですが、個人の特定を防ぐため、一部を変更しています。

平野 雅章
平野 雅章 相談専門ファイナンシャルプランナー(CFP)

2007年に横浜FP事務所を開業。個人相談に特化したFPとして、老後資金、ライフプラン、生命・火災保険、住宅ローンを中心に累計3,500件超の個人相談を実施している。豊富な相談経験を活かし、執筆やセミナー講師も多数。 2011年より一般社団法人全国ファイナンシャルプランナー相談協会の代表理事に就任、公正なFP相談の普及に奮闘。神奈川県立産業技術短期大学校で非常勤講師も務めている。

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