メインコンテンツにスキップ
LIFULL 人生設計

「定年後の暮らしはどのようなものになるのだろうか…」。

そんな漠然とした不安を抱えている人もいるでしょう。世の中には様々な「定年対策情報」がありますが、その多くは不必要に不安を煽っていると経済コラムニストの大江英樹氏は指摘します。

「定年前、しなくていい5つのこと」「知らないと損する年金の真実」などの著書があり、自身も定年後の起業を経験している大江氏に定年前に知っておくべきポイントについて解説していただきました。

大江 英樹 おおえ ひでき

経済コラムニスト

漠然とした不安を持つ必要なんてない

現在、日本には 50 代の人が 1750 万人ほどいます。年代別に見ると 30 代の 1831 万人に次ぐボリュームゾーンです。ところがこれらの人達の多くが漠然とした不安を持っています。その不安の正体は「老後不安」という得体の知れない不安です。

私は 60 歳でサラリーマンを引退し、その後自営で今日まで過ごし、「定年後」を実際に自分で体験して 10 年あまり経ちました。その間に自分が経験したことや定年を経験した多くの人に取材する中で、漠然とした不安なんか持つ必要は全くないことをつくづく感じるようになりました。そこで、この記事では定年前に知っておいたほうがいい 3 つの点についてお話したいと思います。

「老後は 2000 万円必要」は誤解! まちがいだらけの“定年常識”に惑わされない

3 年ほど前に『老後 2000 万円問題』というのが話題になりましたが、私は当時から「2000 万円問題などというものは存在しない」と言い続けて来ました。ここで詳細は述べませんが、話題になったのは、高齢無職夫婦世帯は年金収入よりも毎月 5 万 5 千円も多く生活費がかかっているので、老後が 30 年あるとすれば 2000 万円足りないという話だったと思います。

ところが実際にあの報告書に出ていた高齢無職夫婦世帯は平均すると貯蓄額を約 2500 万円持っているのです。なんのことはない、要するに 2000 万円足りないなどという話ではなく、2500 万円も貯金があるから毎月、年金よりもたくさん支出しても全く問題無いという話なのです。

もしそれだけの貯蓄がなければ少し支出を減らせば良いだけです。事実、2000 万円問題は 2017 年に発表された総務省統計局のデータが元になっていますが、直近 2020 年のデータでみると、毎月の不足額は 5 万 5 千円ではなく、1540 円ほどになっていますから、30 年間での不足は約 55 万円。つまりコロナ禍で旅行や外食を少し控えただけで、いつのまにか 2000 万円問題は 55 万円問題になっているということなのです。

さらに年金だけでは生活していけないというのも嘘です。もちろん自営業だった人は公的年金だけで生活するのは無理ですが、サラリーマンで定年まで働いた人であればそれほど心配することはありません。私自身、70 歳にしてまだ年金は一円ももらっていませんが、自分が経営する会社から自分に払っている給料は、受け取る予定の年金の金額(月額 22 万円)とほぼ同額にしています。でもそれだけで夫婦二人、十分生活しています。実際、統計を見ても年金だけで生活している人は 48.4%、ほぼ半分ぐらいの人は年金だけで生活しているのです。

こうした状況にもかかわらず、金融機関は「年金は破綻する」だの「年金だけでは生活できない」と言って不安を煽り、自社の保険や投資信託を勧めてきますが、よくわからないままに変な金融商品を買ってしまう方がよほど危険なことだと思います。

「生きるため」ではなく「楽しむため」に働くという選択肢も

定年後も働くという人は増えており、これは良いことだと思います。健康に気をつけて元気で働ける内は長く働く、そして前述の公的年金を繰り下げて 70 歳から受け取り始めるようにすれば支給額は 42%増額されますから、さらに老後生活の安心感は増します。

定年後の働き方は大きくわけて 3 通りです。(1)会社に残って再雇用で働く、(2)別の会社に再就職して働く、そして(3)起業する、です。この内、最も多いケースは(1)の再雇用で働くことです。ところが私はこの「再雇用」という働き方はあまりお勧めしません。私自身、定年後に半年だけ再雇用で働いたことがありますが、正直ちっとも面白くなかったからです。同じ部署にいながら立場が変わって働くというのは想像している以上に悩ましいことがあります。最も悩ましいのは、ややもすれば責任と権限があいまいになりがちなことです。でもこれは仕方ありません。会社からしてみればシニアに就業機会を与えないといけないということが法律で決まっているから再雇用しているだけで、どうしても必要な人材ばかりではないからです。

むしろ私が一番お勧めするのは(3)の「起業する」です。なぜなら自由な働き方ができるからです。サラリーマンというのは会社に『自由』を売り渡す代わりに身分の安定を得る商売です。会社員でいる間は自分のやりたいことができず、不満があっても我慢せざるを得ませんが、定年で会社を離れれば自由な働き方、自分のやりたいことができるようになります。

起業するといっても別に大袈裟に考える必要はありません。規模を大きくしようとしたり、借入を起こしたりせず、自分 1 人、あるいは家族だけで事業を行い、月に数万円でも稼げれば十分です。前述したように生活するだけなら年金だけでも十分可能ですし、サラリーマンなら、退職金や企業年金だって受け取れる人もいるでしょう。ですから生きるために働く必要はなく、楽しむために働けば良いのです。

実際に定年後、自分がやりたかったことを実現している人はたくさんいます。自分の趣味を仕事にしたり、それまでの会社員での経験を生かして若い人が起業した会社でお手伝いをしたりと、実に様々な働き方があるのです。定年後に何よりも大事なことは『自由でいること』だと思います。

『べき論』を捨てて、定年後こそ自由を満喫しよう

では定年後に向けて 50 代から準備しておいた方が良いことは一体何でしょう。まずひとつ目は会社以外での人とのつながりを持つことです。いつまでも会社の中での地位や立場にこだわるのではなく、会社生活は早く“成仏”させることが大切です。仕事を続けるにしても趣味やボランティアで活動するにしても何よりも大事なのは人とのつながりです。私は「定年後はコミュニケーションが 9 割」だと主張しています。家族、中でもパートナーのいる人はパートナーとのコミュニケーションを大切にすべきですが、独身の方であれば友人とのコミュニケーションが最も大切だと思います。

「自分には友人がたくさんいるから」と思っている人も多いでしょうが、それが「友人」なのか「仕事仲間」なのかを見極めることも大切です。ほとんどの場合、それは「仕事仲間」であって定年退職と共に消えてなくなってしまうことが多いからです。

次に、できることなら資産運用は考えておいた方がいいでしょう。もちろん働くことの方が大事ですが、資産運用でお金を増やすためには時間がかかります。もし投資をするならできるだけ早い時期に、そして気が付いた時に運用をスタートするのが良いと思います。年金だけの場合、日常生活は大丈夫ですが、お金のかかる趣味や海外旅行に行きたいということであれば、自由に使えるお金を持っておくことは大切だからです。

ただし、投資は焦ってやってはいけません。勧められたから、短期間で儲かるからという理由で投資を始めれば大概は失敗します。ですから金額は少しずつから始め、小さい失敗を繰り返すことが大事です。だからこそスタートは早くした方が良いのです。

最後に定年後に向けて、これだけは気をつけておいた方がいいということをお話しします。それは『べき論』や『ねばならない論』に惑わされないようにすることです。定年後の生活は誰にとっても初めての経験なので不安になるのは仕方ありません。世の中に出回っている定年対策本を読むと「定年後は ○○ をすべき」とか「~をしなければならない」といった類いの話が多いのですが、定年後ぐらいは自分のやりたいようにやれば良いのです。

ここで紹介したことはほんの一部でしかありませんし、いずれも知っておいた方がいいでしょうが、最後は自分で考えるべきことです。定年後に手に入れる『自由』、『自分で考えること』は、人生最高の楽しみを与えてくれるに違いありません。

大江 英樹 おおえ ひでき

経済コラムニスト

1952年、大阪府生まれ。野村證券で個人資産運用業務や企業年金制度のコンサルティングなどに従事した後、2012年にオフィス・リベルタス設立。資産運用やライフプラニング、行動経済学に関する講演・研修・執筆活動を行っている。

著書に『知らないと損する年金の真実』『となりの億り人 サラリーマンでも「資産1億円」』『定年前、しなくていい5つのこと~「定年の常識」にダマされるな!~』 などがある。

公式HP:株式会社オフィス・リベルタス Twitter:@officelibertas