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2022年4月から高校の家庭科で金融教育が始まっています。この金融教育では、どのようなことを教えているのでしょうか?外資系運用会社などを経て、金融庁に入庁し、金融教育担当として高校家庭科の指導教材の制作に携わった塚本俊太郎氏に話を聞きました。

塚本 俊太郎 つかもと しゅんたろう

金融教育家

-近年、始まった中高生への金融教育とはどのようなものなのでしょうか?

金融庁が進めている金融教育は、「家計管理」「ライフプランニング」「資産形成」を 3 本の柱としています。一つ目の家計管理は、毎月の収支を把握して、お金を貯められるようになることです。また、ライフプランニングは、結婚資金や教育資金といった将来にかかる支出の種類と金額を理解して、準備していくことです。

そして、3 本目となる資産形成の中で、株式や投資信託について教えています。ただ、それも資産形成という文脈の中で教えるものなので、「生活防衛費や 10 年以内に使う予定のあるお金は流動性の高い預金に預けておき、それ以外のしばらく使う予定のないお金を投資信託などで運用しよう」という話をしています。

「金融教育」というと資産形成の中の投資の部分だけがフォーカスされがちなのですが、今お話しした 3 本柱のすべてが重要です。中でも最初にやらなければならないのは、「使いすぎない」「お金を貯める」という家計管理の部分です。ここができないと資産形成まで進めないですから。

-家計管理や資産形成については様々な媒体で目にすることも多いですが、ライフプランニングについては意外と学ぶ機会が少ないように思います。どのようなことを教えているのでしょうか?

金額から入ってしまうと、どうしてもネガティブになってしまうと思います。例えば、「家を買うと数千万かかります」「子どもが大学まで行くと数千万かかる場合があります」といった話をすると、「そんなに貯められるかな」といった不安だけが大きくなってしまうのです。

なので、ライフプランニングについては、あくまで自分がやりたいことや望むライフスタイルに応じてメリハリをつけながら収支をうまくコントロールすることだと、まず伝えています。

その上で、「人生の 3 大支出」と言われる住宅資金、教育資金、老後資金の例などを挙げて、それぞれの概算を示します。教育費で言えば、小学校から大学まですべて公立なら約 800 万、すべて私立なら約 2100 万になります。この振れ幅の中で、自分がどのような選択肢を取るべきかを考えていくわけです。

また、老後資金についても、「8000 万〜1 億円」と言われると、非常に大きな金額に思えますが、これは 25 年間の生活費ですから 25 で割ると 8000 万の場合、年額 320 万、月額なら 27 万円程度です。そう考えると年金もありますし、退職金や 60 歳以降も働くことによって、一定部分はカバーできる可能性が高い。ただ大きい金額であることには変わりがないので、「計画的に準備していこう」というメッセージは伝えています。

その上で、教科書には、統計に基づく平均値が記載されていますが、現実には個々人の選択によって、大きく金額変わってくるので、なるべくパーソナライズして考えた方が良いという話もしています。

親世代でも現在の「家庭科」から学ことは多い

-老後資金について、これからプランニングしていく世代の多くは、学校でそうした授業を受けていないと思います。

中学生、高校生の子どもがいる家庭は、実際の教科書を読んでみても面白いと思います。現在の家庭科の教科書は、金融や経済の仕組み、給与明細の見方や社会保険料についても解説されています。

少し前ですと「家庭科」というと「裁縫や調理実習」といった授業をイメージする人も多いと思いますが、現在はそれこそ家計管理やライフプラニング、キャリア形成など「生活や人生に関わるすべて学ぶ」という授業になりつつあります。また、体験を重視しているので、実際に保育園や介護施設に行って実習したり、様々な業界で働いている人にインタビューするといった授業も現在では行われています。

そもそも高校の家庭科は 1994 年から必修化されたので、それ以前に高校を卒業した世代では女性しか家庭科の授業を受けていないということになります。なので、現在の家庭科の教科書を 40 代後半以上の男性が読むと、知らなかったことも多いのではないでしょうか?

だからこそ、これを機会に親世代も子どもと一緒にお金について学んで欲しいと思いますね。

-確かに社会に出てしまうと、お金について体型的に学ぶ機会はそれほどないですね。

すでに社会人になっている人たちの多くは、これまでお話ししてきたような金融教育を受けてきませんでした。しかし、今は中学生にも、消費者教育の文脈でクレジットカードの使い方などについて教えています。リボ払いなどについても「手数料が高くなるから使わない方がいいよ」という話をしているのです。

そのため、高校生に「中学の時に習ったお金のことは?」と聞くと「リボはダメ」という答えが返ってくることも多いですね。そういった部分も含めて、マネーリテラシーについては、今の親世代より学校で教えていることは多いと思います。

-実際に中高生などに授業を行う中では、どのような反応が多いのでしょうか?

「授業としてお金の話を聞いたのは初めてだったので、とても新鮮だった」という声を聞くことが多いですね。ただ資産形成については、難しいと感じる人もいるようです。

株式はまだしも債券や投資信託、リスクとリターンといった用語は、あまり身近ではないため、「言葉が難しかった」といった声を聞くこともあります。ただ、前向きなコメントをもらうことも多いですし、資産形成に興味を持つきっかけにしてほしいと考えています。

ライフステージにあわせて自身の金融知識もアップデートを

-20 代のつみたて NISA 口座開設数も増えていますし、SNS などを見ていると、最近は早いうちから資産運用を始める人も増えているように思います。

私は現在、Clubhouse(音声 SNS アプリ)と Twitter スペースで毎週土曜の朝 10 時から 2 時間ほどお金に関する質問に答える「お金の学校」という番組をやっているのですが、そこで親世代から「自分の子どもに投資をさせるにはどうしたらいいですか」という質問を受けることがあります。

そういう時に私は、若い人はそれほど多額の資金を投資に回さなくても良いという話をしています。「旅行に行く」「友達と会う」といったことにメインでお金を使うようにして、その上で、経験を積むために月 100 円程度、あるいは何らかのポイントを投資に回すといった形でも良いでしょう。

親世代の方々も自分が投資を始めると「子どもたちにも」という考えになることが多いですが、その前にまず家計管理について知る必要があります。家計管理においては、NEEDS(必要なもの)と WANTS(欲しいもの)に分けて、後者はよく検討した上で購入するようにということを伝えています。

これも指導教材に書かれていることですが、「収入-支出=貯蓄」という考え方だとお金を貯めることは困難です。何故なら、お金があるとコンビニに寄った時などに「ついもう一品」という形で使ってしまうからです。なので、「1万円貯める」と決めたなら、最初に収入から 1 万円を差し引いて、残りでやりくりする「先取り貯蓄」の形を取るように勧めています。そういう話でも、「知らなかったです。勉強になりました」という大人の方も結構多いですね。

-やはり、まずは家計管理が重要ということですね。

また、最近投資を始めた人という人から、「初心者を卒業したら何をやったらいいですか」という質問をよく受けるのですが、私は「つみたて NISA と iDeCo を満額やった上で、特定口座でつみたて NISA で買っているのと同じ投資信託を買ってください」と伝えています。つまり、基本的には、インデックス投資で充分で、他のことはやらなくていいのです。

プロの機関投資家も、インデックスを買っていることが多いので、個人投資家が無理して個別株や FX、暗号資産といったリスクの高い金融商品に関心を持つ必要はないと思います。趣味として関心を持つのは否定しませんが、インデックスの積立投資であれば、一度設定してしまえば、資産運用に多くの時間を割く必要はなくなります。そうやって空いた時間を本業に使って稼ぐ力を高めたり、友達、家族との時間、趣味に使った方が良いと思いますね。

これまでお話ししてきたように金融教育は、資産形成の部分だけでなく、家計管理、ライフプランニングと合わせて考えることが重要で、「1 回授業を受けたから、もう大丈夫」というものではありません。

例えば、大学生になれば奨学金、社会人になれば企業型確定拠出年金、家を買うのであれば、住宅ローンの変動金利と固定金利といったように、人生のそれぞれの場面に合わせて継続して学び、知識をアップデートする必要があります。だからこそ高校の段階で、まず基礎的な知識を学んだ上で、「今後も必要に合わせて勉強する必要があるんだな」と意識してもらうことが重要だと考えています。

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