「定年後は夫婦で田舎暮らし‥」 移住を検討する際に考えておきたいこと

新型コロナウイルスの影響により、リモートワークが浸透したことに伴い、地方への移住を検討する人が増えています。特に最近では、定年や子どもたちの独立後の「セカンドライフを地方で送りたい」と考える人たちも多くなっているようです。

しかし、生活が大きく変わる「移住」を決断するにあたっては、事前に様々な準備を行う必要があると考えられます。今回は、実際に移住という選択肢を考えているという50代女性A・Kさん(都内在住)に、移住にあたって準備していることや懸念点について話を聞きました。

A・K さん
  • 都内在住 / 50代女性・総合職
  • 家族構成:ご主人(自営業)、子3人
  • 3人のお子様を育てながら、正社員として勤続中のAさん。今まで旅行をあまりしてこなかったので、これからは色んな所に行ってみたいと考えている。

子どもの独立を機に「田舎でのセカンドライフ」を検討

これまで東京で忙しく働きながら暮らしてきたのですが、子どもが成長して社会人となり、私たち夫婦の手を離れたことで、様々な選択肢が出てきました。また、以前は週5出社が当たり前でしたが、コロナ禍でリモートワークが進んだことで、職場に通うことができる範囲内の距離に暮らす必要がなくなっています。

さらに、現在は都内に住んでいるのですが、周囲にある100坪近い住宅がどんどん持ち主が変わっているように感じています。

これはおそらく、その家のお子様が独立し、身体が衰えていくなかで夫婦だけで広い家に住むのは不便ということで、自宅を売って、その資金を元にマンションなどに住み替えていくというパターンが多いんだろうと思います。

そうした状況の中で、私も主人も東京出身で、これまではお互い忙しく、旅行などに行く機会もそれほどなかったため、都会の喧騒から離れて、山などの自然に囲まれた場所で綺麗な空気をすいながら、精神的にも時間的にも余裕のある生活をしながら働くという選択肢が出てきたのです。

そして、主人と実際にいくつかの地域の不動産屋を回ったりしました。

その際に具体的に検討したのは、山梨、長野、群馬 といったエリアです。やはり定期的に子どもたちとも交流を持ちたいので、東京からそれほど離れていないエリアが検討対象で、最も近いところですと、埼玉の飯能 なども候補に上がりました。

買い物、医療・・・「終の住処」選びにあたり考えたこと

ただ、「実際に移住するか」をリアルに考えていくと、なかなか難しい部分があります。まず、移住先に不動産を購入するとなると、ある程度まとまったお金が必要です。また、移住先での移動を考えれば、車も夫婦で一台ずつ必要になるかもしれません。

さらに、スーパーや医療機関との距離も気になります。こうした要素に加えて、地元のコミュニティに馴染むことができるかどうか、というのも懸念点です。

不動産会社の方に聞いてみると、やはり「この地域は比較的、開放的で外部から来た人にも寛容ですよ」という地域もあれば、「あちらは少し閉鎖的かもしれません」といったように地域によって違いがあるんです。

そういう話を聞くと、やはり不安になりますよね。なので、「定年したらいきなり移住」ではなく、リゾート会員権などを購入して週末に地方暮らしのテストをするのでは良いのではないか、という意見も夫婦内では出ています。

もう一つ注意すべきだなと考えているのは、「自分たちが物件を見に行っているのは『一番良い季節や時間帯』である」ということです。観光シーズンの昼間に行ったとしても、その地域の悪い部分は見えません。

例えば、雪がたくさん降る地域であれば自分たちで雪かきなどの作業もしなければなりません。気温の変化の幅や、電灯の多寡、虫・動物が多いか少ないか、自然災害への耐久度などなど考えるべきことは多いですね。

これまで「移住者の受け入れに積極的」と言われる自治体も見てきたのですが、そうした地域が期待している移住者は、「これから、その地域で働き、子育てをしていくんだ」という若い世代のように感じました。

そのため、「子育てが終わって、おじいちゃんおばあちゃんになってから移住する」というような人は、あまり歓迎されてないように思えたのです。なので、移住を検討するにあたっては、「実際に現地に物件を購入した人の生の声」に加えて、第三者的な方々の意見も聞いてみたいと思っています。

若い時ならまだしも50代からの移住となると、「終の住処」を選ぶことになるので、バイアスのかかってない意見を聞いてみたいのです。

相続も考慮して、子ども世代に負担にならない物件を

さらに考えるべきポイントとして、移住のために購入した物件が、子どもたちの世代にとって負担にならないか、という問題があります。私たちも当初、いわゆる別荘地に憧れていて、実際に見に行ったりもしました。

しかし、話を聞いてみると、両親が購入したものの、その後を引き継いだ子供たちが建物をメンテナンスすることができずに最終的に廃墟化してしまうというようなケースが結構あったのです。

一見、景色もよくて素敵に見えるのですが、少し山の上の方にあって段差が多くなると、階段の登り下りが増え、老人にとっては生活が困難になる可能性も高まります。またベビーカーなどの利用を考えると、子育て世代にとってもベストとは言えません。

そうなると、結局宝の持ち腐れになってしまいますし、子どもたちが処分に困るような物件になってしまう可能性もあります。そのため、「子どもたちにとっても使いやすい物件を・・」という風に考えていくと、東京近郊になりますし、そうなると価格も上がっていくので非常に悩ましいところですね。

これは自宅についても同様のことが言えるので、現在所有している物件の価値などを把握しておく必要はあると思います。

リスクを見える化。移住前に欠かせない綿密な資金シミュレーション

こうした様々な懸念点をクリアにするためには、綿密なシミュレーションが必要だと思います。特に資金面については、様々なパターンを考えたいですね。

具体的には、「移住先の物件の購入費プラス日々のメンテナンス費で◯◯万円」「お互い◆◆才まで健康ならおよそ▲▲万円」「仮にどちらかが歩行が困難な状態になってしまった場合には追加で■■万円必要」といった形で、リスクと必要な資金を見える化した上でなければ決断するのは難しいのではないでしょうか。

そのため、自分が考えている老後の資金計画について、良いところも悪いところ、見落としの有無も含めて、しっかりと指摘してくれるような信頼できる専門家への相談などを通じて、リスクの洗い出しや必要な資金のシミレーションができる場があると、非常によいと思いますね。

ただ私自身もそうですが、なかなか実際の相談には踏み切れない部分もあります。一度、相談しよう面談の予約を入れたこともあるのですが、スケジュールを調整する段階でオペレーターの電話対応が悪く、結局やめてしまいました。

やはり老後の資金、生活設計というのは人生に関わる大きな問題なので、ちょっとしたことでも気になってしまうのです。

実際に相談に至るまでには、自分の身近な人からの推薦など、背中を押してくれるような要素が必要かなとも感じていますね。

専門家コメント

お子様たちがご夫婦の手を離れられ、自然に囲まれた田舎への移住を検討されていらっしゃるのですね。今後の人生について、ぜひ幅広い選択肢の中から比較・検討していただければと思います。その際は、以下の3点に注意していただければと思います。

  • ご夫婦ともに東京での生活が長いので、移住先のイメージと現実にギャップがあるかもしれません。すでに検討されているように週末や長期休暇を利用して、実際の地方暮らしをしっかりと試しておくことが大切です。
  • 移住に際して購入する物件はご夫婦が使うことを重視されてよいと思います。 「お子様たちにとっても使いやすい」ことまで考慮すると、結果的にどっちつかずの物件になりかねません。
  • 最後に相談する専門家ですが、最初からベストな専門家を見つけることは難しいと思います。複数の専門家を試しながら信頼できるパートナーを探してみてはいかがでしょうか。
横田 健一
横田 健一 ファイナンシャルプランナー

大手証券会社にてデリバティブ商品の開発やトレーディング、フィンテックの企画・調査などを経験後、2018年1月に独立。「フツーの人にフツーの資産形成を!」というコンセプトで情報サイト「資産形成ハンドブック」を運営。YouTube「資産形成ハンドブック」配信中

横田 健一さんの記事をもっとみる

同じ連載の記事

おすすめの関連記事

介護が不安な、あなたのたよりに

tayoriniをフォローして
最新情報を受け取る

ほっとな話題

最新情報を受け取る

介護が不安な、あなたのたよりに

tayoriniフォローする

週間ランキング

ページトップへ