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LIFULL 人生設計

相談者の老後資金の過不足を判断するために、家計キャッシュフロー表や収支表などのシミュレーションを、私は毎日のように行っています。最初に相談者の現状と今後のご希望をヒアリングし、そのまま反映してシミュレーションするのですが、実は多くの相談者で老後資金が不足する結果になります。

過不足の判断は、夫婦世帯の場合、妻が95歳時に金融資産が残っているかどうかで行っています。理由は日本では、95歳まで生存する男性の割合は11.1%、女性の割合は28.3%まで増えているからです。これは令和2年の統計値ですが、平成2年の同じ統計を見ると男性3.0%、女性9.0%とこの30年で3倍以上に伸びており(※1)、今後も当面は伸びていくと考えると、これから老後を迎える世代にとって女性が95歳まで生きることは「普通」になると思われるからです。

相談としては老後資金が不足する結果になってからが本番で、相談者のお金の使い方や価値観を踏まえながら家計を改善することにより、多くの相談者の95歳時の貯蓄残高シミュレーションがマイナスからプラスに変わり、生活の満足度も維持しながら老後資金の不安を解消してきました。

この連載では、老後資金に漠然とした不安を持っている人が具体的なアクションを起こすきっかけになるよう、こうした家計の改善事例を紹介していきます。今回の記事は、ペットにかかる費用など生活費が高めであまり貯蓄ができておらず、資産運用も経験がないため将来に不安を感じている50代夫婦(Aさん)の事例です。

※1 【出典】厚生労働省:「令和2年簡易生命表の概況2 寿命中位数等生命表上の生存状況」

  1. 老後のお金に漠然とした不安がある方
  2. 家計の管理が苦手だと感じている方
  3. 家計の見直しを検討している方
平野 雅章 ひらの まさあき

相談専門ファイナンシャルプランナー(CFP)

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A さん夫婦は世帯年収 1100 万円と収入が多い一方で支出も多く、毎年、貯蓄が増えない状態が続いているとのことでした。退職金の受け取りもないことから、このままで老後資金が大丈夫か不安になっていました。基本生活費(全ての支出から住宅費・生命保険料・教育費・マイカー経費を差し引いた金額)が 2 人暮らしとしてはかなり高額になっています。その理由のひとつとして、飼い犬が継続的に動物病院に行く必要があることなどから、ペットの費用が月 8 万円になっていることが挙げられます。

A さんが 65 歳以降はペットの費用負担がなくなり、基本生活費は 30 万円に低下すると想定し、併せて 65 歳以降は月の家賃 10 万円の賃貸住宅に引っ越すという想定で、キャッシュフロー表によるシミュレーションを行いましたが、B さん 95 歳時に貯蓄残高は約 4500 万円のマイナスになるという結果でした。

A さん夫婦が家計見直しで重視したこと

この場合、契約内容を適切に見直すことで生活の満足度を下げずに支出を減らせる費目、例えば通信費などは当然見直すべきと考えられます。その上で、95 歳時のマイナス額が非常に大きいことから、そうした支出の効率改善だけでは充分な金額の改善は難しいことを、A さん夫婦に伝えました。保険料は金額が多いのですが、大部分は個人年金保険の保険料でこのまま払込期間の 65 歳まで支払った方がよい状況です。食費など流動費の大幅な削減を行うか、暮らし方の大きな変更、具体的には、住み替えて家賃を下げることや、マイカーを手放すことなどを検討する必要があると思われました。

それらに対し、A さん夫婦の考えは以下のようなものでした。

  • ペットの住環境や通院している動物病院をペットが亡くなるまで変えたくない
  • 今乗っている自動車を少なくとも 65 歳まで乗り続けたい

そこで住宅と自動車について現時点では見直さず、A さん 65 歳時に家賃 10 万円の賃貸住宅に引っ越し、自動車も 65 歳時に手放すと想定してキャッシュフロー表によるシミュレーションを行った結果、基本生活費をすぐに月 8 万円減らし 30 万円にすることができれば、B さん 95 歳時に貯蓄残高がわずかにプラスになりました。しかし、すぐに基本生活費を 8 万円下げるのはかなりハードルが高いと言わざるを得ません。また、介護費用が発生した場合などを考慮できていないため、この改善でもまだ充分とは言えない状況です。この結果を踏まえて、A さん夫婦が今後の暮らし方をどのように変えたいのか考えることを宿題として、1 回目の相談を終えました。

A さん夫婦がペットを家族として最優先で考えていることは、相談を通してよく伝わってきました。ペットの住環境を優先し、かける費用も下がらないとなると、必要な改善額の多さから、大きな生活の変更を強いられることになりそうです。A さん夫婦が決心し、具体的な行動に移すまでは少し時間が必要かもしれないと考えました。

ペット費用の維持と住宅・マイカーの大きな見直し

ところが、1 回目の相談の翌日には A さんから連絡がありました。具体的な数字になったことで、もっと真剣に考えるべきだったと大いに反省したこと、キャッシュフロー表を基に夫婦で話し合い方針を決めたので、再度シミュレーションを依頼したいとの内容でした。方針の内容は次の通りです。

  1. 現住所の近くで月 15 万円以下(家賃+管理費+駐車場代)の賃貸住宅を探し転居する
  2. 勤務先の定年(65 歳)後は、親から相続して間もない地方都市の一戸建てに転居する → 家賃や駐車場代は不要になり、一戸建ての固定資産税と維持費を年 35 万円見込む
  3. 65 歳時に現在の車は手放し、軽自動車を 80 歳まで保有する

住宅とマイカーを大きく見直す一方、基本生活費はなるべく維持したいとのご要望でした。基本生活費以外の見直しとして生命保険で過剰な死亡保障を削減し保険料を月 5000 円削減すること、マイカーローンは金利が高めのため一括返済することの 2 点を反映した上でシミュレーションを行い、現時点の基本生活費は 34 万円(4 万円減)、65 歳以降はペット費用が不要になる想定で 26.5 万円(3.5 万円減)に下げることができれば、妻の B さん 95 歳時に約 800 万円の貯蓄を残せるという結果になりました。

「基本生活費 4 万円減」というプランであれば、通信費と食費の見直しで充分可能と A さん夫婦は判断し、さっそく実行することになりました。なお、生命保険文化センターが行った調査によれば、介護に要した費用は、住宅改造や介護用ベッドの購入費など一時的な費用の合計が平均 74 万円、月々の費用が平均 8.3 万円、介護を行った期間は平均 61.1 カ月でした(※2)。一時金と月々の費用を合計すると平均で約 581 万円を要したことになります。95 歳時の貯蓄残高が約 800 万円であれば、1 人分の介護費用の平均値は賄えることになり、2 人が介護を必要とする場合は自宅を処分することで何とか対応できそうです。

※2 出典:生命保険文化センター:「生命保険に関する全国実態調査」2021 年度

A さん夫婦が支出を見直した効果

※ 3. 95 歳時の貯蓄残高予想は業務用ライフプランソフトにより算出。物価上昇率などの影響で、改善効果は単純に年間改善金額 × 経過年数で算出した総改善金額とは異なります。

A さん夫婦は暮らしでの優先順位がはっきりしていて、それに合わせてメリハリをつけた見直し策により、転居後の新しい暮らしでも生活の満足度を維持できていると言います。

2022 年 5 月から iDeCo の加入可能年齢が 65 歳まで拡大されることもあり、iDeCo への加入もお勧めしていましたが、A さん夫婦はシミュレーションよりさらに手厚く介護に備えておきたいと iDeCo とつみたて NISA についてもご相談いただき、さっそく実行に移しています。

変更のポイントを絞り込んで、効果的な生活費の削減を

生活費の削減は生涯の収支を大きく改善する効果があります。その一方で、多額の削減を必要とする場合、様々な費目の削減を積み上げることで達成しようとすると、全てを実行することが難しい、あるいは生活の満足度が大きく低下するといった問題が生じることも。だからこそ、暮らし方の優先順位を明確にし、効果の大きな変更に絞り込むことが効果的なケースも少なくありません。

また、ペットを飼っている人にとって、ペットの長寿命化により高齢夫婦が長期間、老犬の面倒を見る、老・老・老世帯化は意識すべき問題です。ペットの老後費用の確保を含めた老後資金シミュレーションを行い、必要に応じてペット保険に加入するなどの対策も検討しておきたいものです。

※事例として挙げたご家族のプロフィールや支出見直しの内容は事実に基づくものですが、個人の特定を防ぐため、一部を変更しています。

平野 雅章 ひらの まさあき
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相談専門ファイナンシャルプランナー(CFP)

会社員経験からサラリーマン家庭の経済的な不安解消を使命とし、2007年に横浜FP事務所を開業。個人相談に特化したFPとして、老後資金、ライフプラン、生命・火災保険、住宅ローンを中心に累計3,500件超の個人相談を実施している。豊富な相談経験を活かし、執筆やセミナー講師も多数。 2011年より一般社団法人全国ファイナンシャルプランナー相談協会の代表理事に就任、公正なFP相談の普及に奮闘。神奈川県立産業技術短期大学校で非常勤講師も務めている。