正しく理解して理想の老後を!年金にまつわる「3つ誤解」を反証

老後の人生設計を考える上で、まず理解しておきたいのが年金制度です。これまでも「自分らしく生きるために、正しく理解する公的年金保険」という連載で、3回にわたって公的年金制度の役割、仕組み、そして老後の生活設計への活かし方について解説してきました。

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年金の役割~自分らしく生きるために正しく理解する公的年金保険 第1回~

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しかし、メディアやSNSでは、依然として誤解をまねくような情報も多く、年金制度に対する信頼がゆらぎ、不安を感じてしまうこともあるかもしれません。

そこで、今回の記事では、公的年金制度に関するよくある誤解について取り上げて、その問題点を解説していきます。皆さまが誤った情報によって迷ったり、不安を感じたりすることのないよう、ご活用いただければ幸いです。

誤解1.年金制度はそのうち破綻する

年金制度について考える時に、以下のようなイメージを持っている人も多いのではないでしょうか?

日本の年金制度は、現役世代が払う保険料が年金受給者への給付の原資となっている「賦課方式」です。

したがって、少子高齢化が進むことによって、高齢者を支える現役世代の数が減っていくと、「現役世代の負担が増えて、年金制度は維持できずに破綻する」あるいは、「大幅に減額されてしまう」と直観的に考えている人が少なくありません。

そこで、年齢別人口構成の推移と将来予測を表した以下の表をご覧ください。「お神輿型 → 騎馬戦型 → 肩車型」というイメージは、表の(B)と(C)の比率に注目したもので、確かに1970年には高齢者1人を支える現役世代の数が8.5人であったのが、2020年には1.9人となり4分の1以下に減っています。

※ 2020 年までは人口統計(総務省)、2030 年以降は人口将来推計(国立社会保障・人口問題研究所)

しかし、現役世代が支えているのは、高齢者だけではありません。表を見てお気づきの方もいるかもしれませんが、現役世代が支えている子どもの数についても考慮する必要があるのです。そして、少子高齢化によって、「子どもを支える現役世代の数」は増えているのです。

子どもと高齢者の数を合計して、これを支える現役世代の数を見てみると、1970年に1.5人だったものが2020年では1.2人で、それほど大きく低下していないことが分かります。

さらに、年齢によって支える人、支えられる人を区別するのではなく、就業者と非就業者の比率でみると、昔も今も、そして将来もその比率は変わらないという事実があります。

社会保障全体で見れば、現役世代の負担は何倍にも増えるものではなく、女性や高齢者の労働参加を促し、年金、医療、介護、そして子育ての各分野における制度改革を行っていけば、少子高齢化は乗り切ることができるものなのです。

年金に関して言えば、団塊とそのジュニア世代が高齢者となるこれから30年間程が厳しいのですが、そこを給付水準の抑制と積立金の活用によって乗り切れば、その先は高齢者と現役世代の比率は一定となります。

上記のような事実から「少子高齢化だから年金制度は破綻する、あるいは年金額が大きく減ってしまう」という言説は誤解であるとお分かりいただけたのではないでしょうか?

誤解2.若者は「年金の払い損」になる

誤解1と同様に根強い年金に対する誤解として、「若者は払い損になる」という言説があります。下のグラフは、2014年の財政検証で厚労省が示した試算で、生まれた年ごとに平均的な保険料負担額と老齢年金の給付額、そしてその倍率(給付額 ÷ 負担額)を表したものです。

1945年生まれの場合は、保険料負担1000万円に対して、年金給付が5200万円であり、給付負担倍率は5.2倍です。一方、1995年生まれだと、保険料負担が3400 万円に対して、年金給付が7900万円であり、給付負担倍率は2.3倍となります。

世代ごとの保険料負担額と年金給付額

※ 2014 年財政検証のデータに基づいて筆者作成。
(注)それぞれ保険料負担額及び年金給付額を賃金上昇率を用いて 65 歳時点の価格に換算したものをさらに物価上昇率を用いて現在価値(2014 年度時点)に割り引いて表示したもの。

確かに、これを見ると、今の受給者は得で将来の受給者は損だと感じることでしょう。しかし後述するように、公的年金保険について、このような試算に基づき世代間の不公平感を煽るような論考は適切ではありません。

世代間格差を問題視する一部の学識者が、2012年に公表した論文の中で、世代ごとの負担と給付の試算を示し、世代間格差が不公平なものであると問題提起をしました。

しかし、この試算は、計算の技術的な問題をいくつか含んでおり、世代間の格差を誇張するようなものでした。そのため、この試算の問題点を修正した上で、2014年の財政検証時に厚労省が上のような試算を公表したのです。

残念ながら、ほとんどのメディアでは誤った試算をそのまま取り上げていたため、若者を中心とした多くの人々に対して、年金制度に対する不信感や世代間格差に対する怒りが植えつけられ、それらが折に触れてSNSで拡散され、未だに年金不信の根源となっているのです。

2019年の財政検証において、厚労省は誤解を招く試算の公表は止めて、このような世代間格差を不公平だと問題視することが適切ではない理由として以下の2つを挙げています。

第一に、公的年金制度が、老親の扶養を私的扶養から社会的扶養に代替してきた歴史を考慮する必要があるということです。

今の年金受給者が現役世代であった時には、保険料負担は現在より低いものでしたが、当時の年金制度はまだ未成熟で、給付水準もそれほど高くありませんでした。

したがって、私的扶養と社会的扶養が混在している状態にあり、私的扶養に対する負担と社会的扶養に対する負担(年金保険料)の両方を背負っていたことになります。

つまり、かつての現役世代は、年金だけでは生活できない年老いた両親の世話をしながら、自らの保険料も納める「二重の負担」をしていた側面があるということです。

一方、今日では年金制度も成熟化し、かつての私的扶養は社会的扶養に相当程度置き換わった状態にあり、私的扶養に対する負担は軽くなっているはずです。

このように公的年金の保険料負担と年金給付の比較だけをもって世代間の公平を論じることは、現受給者が現役時代に負担していた私的扶養による貢献が考慮されてなく、社会の変化を踏まえていない一面的な見方だとされています。

そして、第二の理由としては、公的年金保険を「保険」として評価するべきであるということです。連載「公的年金の役割~自分らしく生きるために、正しく理解する公的年金保険 第1回~」でもお話ししたとおり、公的年金は私たちの生活のリスクに備える保険です。

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したがって、積み立ての金融商品のように、支払った保険料に対する給付の期待値だけをみて制度の良し悪しを評価することはできません。若い世代でも長生きすれば給付の倍率は上昇し、現受給者でも早く亡くなれば倍率は低下します。

つまり、早い段階で死んでしまえば一円も年金を受け取ることができず損をすることになり、長生きすれば受取額が増えて得をするということですが、そうした議論自体がナンセンスであるということです。

公的年金は長生きに対する備えであり、さらに死亡、障害といったリスクにも備える保険です。民間の死亡保険や医療保険に対して、支払った保険料と保険給付の比率を見て加入を検討する人はいないでしょう。

万一の場合に備えた保障があることで、日々を安心して過ごせるという保険本来の効用について、もっと意識する必要があるのではないでしょうか。

このように、年金制度における負担と給付の関係だけに注目して、世代間の格差を問題視し、制度に対する信頼を損なうような論考には注意が必要です。国民による支え合いの仕組みである公的年金保険制度の本質を意識するべきでしょう。

誤解3.将来もらえる年金は大幅に少なくなる

2022年度の年金額は、前年度から0.4%減額されることになっています。これは、毎年の賃金・物価の変動に合わせた改定で、コロナ禍の中で賃金が低下したことが原因でした。

しかし、将来の年金は減るものだと多くの方が思っている中で、このような減額改定はネガティブに取られがちで、やはり将来の年金額は大きく下がるものだと勘違いして、不安を感じる方も少なくないでしょう。

▲ 30年後の年金額と所得代替率(経済前提ケースⅢ)

「公的年金の役割 ~自分らしく生きるために、正しく理解する公的年金保険 第2回~」の中では、『「年金が2~3割減る」ことの意味』について、上図を用いて、所得代替率(モデル世帯の65歳時における年金額を現役男子の平均賃金で割った比率)が低下することであって、

現在の物価水準に引き直した実質的な年金額は、それほど減るわけではないと説明しました。

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公的年金制度の仕組み ~自分らしく生きるために、正しく理解する公的年金保険 第2回~

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一定の経済成長を前提とした上のケースでは、所得代替率は61.7%から50.8%へと2割近く低下しますが、物価調整後の実質的な年金額は22.0万円から24.5万円へと上昇しており、年金の購買力は維持されていることが分かるでしょう。

ところが、年金制度改正が4月から施行されることを前にして、某経済雑誌2誌で組まれていた年金特集の中で掲載されていた「将来の年金額」は、いずれも現在の年金額に所得代替率の低下比率を乗じたものでした。

すなわち、上のケースに当てはめると、将来の年金額は18万円程(=22×50.8/61.7)になるというものです。しかし、この年金額によって今の世の中で暮らすことをイメージすると誤解をまねきます。

所得代替率の低下は、年金が現役世代の賃金の上昇に追いつかないということなので、現役世代が賃金上昇によって豊かになる部分を年金受給者は同じようには享受できないことだと説明できます。

そのため前述の経済雑誌の特集に掲載された18万円という将来の年金額は、賃金上昇率に対する実質額とも解釈できます。

※「基礎的支出は」は、食料、住居、水道・光熱、家具・家事用品、被服及び履物に関するもの

しかし、上図のように基礎的支出は、賃金上昇率よりも物価上昇率に近い形で伸びています。つまり、年金によって賄う生活費は、衣食住に係る基礎的支出の部分が大きいため、物価上昇率に対する実質額で見る方が妥当だと考えられるのです。

ちなみに、将来の年金額に関する報道で、もう1つ驚いたことがあります。それは、2022年1月19日の NHK「おはよう日本」という朝のニュース番組の特集の中で著名な経済コメンテーターが、「年金は夫婦世帯で現在21万円のものが30年後には13万円になる」とコメントしていたことです。

このコメンテーターは、公的年金に関しては的外れなコメントをすることも多く、そのような方のコメントを NHK が報道したことは大きな問題といえます。私が実際に相談を受けた方の中にも、この番組を見ていて、「将来の年金は大丈夫でしょうか」と心配していた方がいらっしゃいました。

現行の年金制度では、所得代替率が50%を上回る給付水準を確保することが法律で定められているため、賃金水準が4割低下しない限り、年金額が4割も減ることはあり得ないのです。このように年金に関しては、NHKでさえも、誤った言説を流すことがあるので注意が必要です。

典型的な3つの誤解を解消して、年金について正しい理解を

公的年金制度に関する正しい理解を妨げる典型的な誤解について、お話ししました。そのポイントをまとめると、以下の通りとなります。

・少子高齢化だから年金制度は維持できないという直観的に考えないこと。少子高齢化によって子どもの数も減少しており、就業者(支える人)と非就業者(支えられる人)の比率は、昔も今も、そして将来もほぼ一定で、現役世代の負担が何倍にも増える訳ではない。年金制度に関しては、団塊とそのジュニア世代が受給者となる期間を、給付水準の抑制と積立金を活用することによって凌げば何とかなる。

・世代ごとの保険料負担と年金給付の倍率を比較して、世代間格差が不公平であるというのは意味がない。現受給者が現役世代の時は、年金制度が未成熟であったため、保険料負担と合わせて老親に対する私的な扶養の負担があったはず。また、年金制度は保険であるから、給付の期待値と保険料の比率を比較して優劣を比較するのではなく、保障があることによって安心して日々を過ごせる効用についても目を向けるべき。

・将来の年金額には、物価上昇率に対する実質額と賃金上昇率に対する実質額があるが、年金の役割が衣食住といった基礎的支出を賄うことで、教養娯楽費といった選択的支出までは賄うことを期待されていないので、物価上昇率に対する実質額を見る方が妥当である。また、NHK でも誤った年金報道をすることがあるので、注意が必要である。

【参考文献】

  • ちょっと気になる社会保障 V3(権丈善一著、勁草書房)
  • 平成 26 年・令和元年財政検証結果レポート(厚生労働省)
高橋 義憲
高橋 義憲 ファイナンシャルプランナー

金融機関で25年間、主に内部管理業務に従事した後、ファイナンシャル・プランナー(FP)として独立。現在は、FPとしての活動と併せて、年金事務所での相談業務に従事。

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